マンション管理組合保管の文書の写真撮影は可能か?

今日は,平成28年12月9日大阪高等裁判所判決の事案をご紹介します。

この事案は,301戸を抱える大規模マンションの管理組合(いわゆる権利能力なき社団)が保管する文書について,当該マンションの区分所有者が閲覧と,その際に『写真撮影』をする権利があるのかないのかが争われたものです。

まず,裁判所は,マンション管理組合と区分所有者の間の法律関係について,組合とと組合員との間には,前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし,後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係,すなわち,民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるという前提を認定しました。

そして,組合保管文書の閲覧謄写の根拠として,民法645条の規定(条文:受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。)を類推適用できるだろうかについて検討しました。

この点について,裁判所は,適正化推進法の規定及びマンション管理適正化指針の趣旨を酌み,さらに,一般社団法の規定も踏まえ,

・管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有すること

・マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること

・一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていること

という理由から,管理組合と組合員との間の法律関係には,これを排除すべき特段の理由のない限り,民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当であると判断しました。

 管理組合は,組合員からの求めがあれば,その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として,業務時間内において,その保管する総会議事録,理事会議事録,会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を,その保管場所又は適切な場所において,閲覧に供する義務を負うということです。

ここで,各書類について,閲覧義務を認めていますが,無制限ではありません。

「業務時間内」に,「その保管場所又は適切な場所」において閲覧に供すればいいのです。

請求者の請求が夜間や区分所有者の居室であってもそのような個別のリクエストにまで応じる義務はないということです。

では,閲覧義務を負うとしても,閲覧の方法として,『写真撮影』まで認められるでしょうか。

この点,裁判所は,『少なくとも,閲覧対象文書を閲覧するに当たり,閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず,管理組合は,上記報告義務の履行として,写真撮影を許容する義務を負うと解される。』と判断しています。

逆に言えば,この判決からは,コピー機でコピーをさせるとか,閲覧場所にコピー機がなければ,文書の持ち出しを許可することまでは許容しておらず,その点まで義務として認める判断をしたわけではないことに注意です。

 

組合員名簿の閲覧については,そもそも,本件マンション管理規約に閲覧を求める規定が定められていましたが,個人情報保護の観点から,この規定は無効だという主張がされました。

この点について,裁判所は,

・国土交通省が定めた標準管理規約64条は,個々の区分所有者に対し組合員名簿の閲覧請求権を認めていること

・一般法人法32条は,一般社団法人の個々の社員に対し社員名簿の閲覧謄写請求権を認め,会社法125条は,株式会社の個々の株主に対し株主名簿の閲覧謄写請求権を認めていること

・区分所有法34条3項及び4項は,少数組合員が総会を招集する場合があることを定めているが,少数組合員が組合員名簿を閲覧できなければ上記規定の実効性を確保することができないおそれがあること

を理由に,閲覧請求権を定めた規約は有効としました。

その上で,「例外的に」,情報開示を拒絶できる場面に該当するかについても,本事例では否定しました。

本事例で,組合員が開示を請求した経緯は,管理組合が発注する大規模工事(予算8400万円)の請負業者が,特定の組合員と利害関係があり,不正が行われているらしいという噂があったところ,理事会が業者選定経過を何も説明しないこと,組合の役員人事の選任に不透明な点があったこと等に不審を抱いた組合員が,管理組合に工事に関する資料の開示を求めたのに,何ら資料が開示されず,明示的に資料の開示を拒絶したため,管理組合の運営に不信感を抱いたというものでした。文書の閲覧請求には,なるほどうなずける相応の理由がありました。

 

上記判例から考えると,管理規程に定められていたとしても,名簿等の個人情報に関する閲覧請求に際しては,その理由について確認する必要があり,無制限に応じなければならないということではないと言えます。名簿を第三者に売るなどの不当な目的をもっていれば拒絶が可能な場合もありますので,特に名簿の開示については慎重な判断を要すると思われます。