マンション管理費等の滞納者に対する訴訟の弁護士費用の請求

マンション管理組合から,管理費等の滞納をしている区分所有者に対して,請求をしても支払いがなされない場合,最終的には弁護士に委任することはよくあることです。

しかし,弁護士費用が発生することから,少額の場合などは,なかなか弁護士に依頼することが難しいと思われます。

国土交通省が定めるマンション標準管理規約の67条第4項には,「前項の訴えを提起する場合,理事長は,請求の相手方に対し,違約金としての弁護士費用及び差し止め等の諸費用を請求することができる」とあります。

この弁護士費用についての裁判例として,平成26年4月16日の東京高等裁判所判決があります。

違約金としての弁護士費用の請求がどこまで認められたのでしょうか?

当該マンションの規約においては,「管理組合は,区分所有者に対し,滞納管理費等,その遅延損害金及び違約金としての弁護士費用を加算して請求することができる」と定められており,管理組合をこの規定を根拠に,訴訟委任のために要した弁護士費用一切,合計102万9565円を請求しました。

結論から言えば,一審の東京地裁では,弁護士費用は50万円のみが認められ,控訴審では,上記合計102万9565円が全額認められました。

そして,マンション規約の定め方について,裁判所は,違約金としての弁護士費用の請求の根拠となる条項の記載について,『その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。』としており,実務的にはこのように定めて疑義の残らないような明確な規約とすることが大切です。

なお,上記高裁の判決文の該当部分は以下のとおりです。

 そこで、判断するに、国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約(甲8)は、管理費等の徴収について、組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依拠するものである。そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。
 これに対して、控訴人は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない。
 以上の判断枠組みの下に、本件をみるに、被控訴人は、本件訴訟追行に当たって、訴訟代理人弁護士に対し、102万9565円の支払義務を負うが(甲5)、その額が不合理であるとは解されない。
 したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件管理規約36条3項に基づき、「違約金としての弁護士費用」102万9565円の支払義務がある。

 

マンション管理組合保管の文書の写真撮影は可能か?

今日は,平成28年12月9日大阪高等裁判所判決の事案をご紹介します。

この事案は,301戸を抱える大規模マンションの管理組合(いわゆる権利能力なき社団)が保管する文書について,当該マンションの区分所有者が閲覧と,その際に『写真撮影』をする権利があるのかないのかが争われたものです。

まず,裁判所は,マンション管理組合と区分所有者の間の法律関係について,組合とと組合員との間には,前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし,後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係,すなわち,民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるという前提を認定しました。

そして,組合保管文書の閲覧謄写の根拠として,民法645条の規定(条文:受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。)を類推適用できるだろうかについて検討しました。

この点について,裁判所は,適正化推進法の規定及びマンション管理適正化指針の趣旨を酌み,さらに,一般社団法の規定も踏まえ,

・管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有すること

・マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること

・一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていること

という理由から,管理組合と組合員との間の法律関係には,これを排除すべき特段の理由のない限り,民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当であると判断しました。

 管理組合は,組合員からの求めがあれば,その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として,業務時間内において,その保管する総会議事録,理事会議事録,会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を,その保管場所又は適切な場所において,閲覧に供する義務を負うということです。

ここで,各書類について,閲覧義務を認めていますが,無制限ではありません。

「業務時間内」に,「その保管場所又は適切な場所」において閲覧に供すればいいのです。

請求者の請求が夜間や区分所有者の居室であってもそのような個別のリクエストにまで応じる義務はないということです。

では,閲覧義務を負うとしても,閲覧の方法として,『写真撮影』まで認められるでしょうか。

この点,裁判所は,『少なくとも,閲覧対象文書を閲覧するに当たり,閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず,管理組合は,上記報告義務の履行として,写真撮影を許容する義務を負うと解される。』と判断しています。

逆に言えば,この判決からは,コピー機でコピーをさせるとか,閲覧場所にコピー機がなければ,文書の持ち出しを許可することまでは許容しておらず,その点まで義務として認める判断をしたわけではないことに注意です。

 

組合員名簿の閲覧については,そもそも,本件マンション管理規約に閲覧を求める規定が定められていましたが,個人情報保護の観点から,この規定は無効だという主張がされました。

この点について,裁判所は,

・国土交通省が定めた標準管理規約64条は,個々の区分所有者に対し組合員名簿の閲覧請求権を認めていること

・一般法人法32条は,一般社団法人の個々の社員に対し社員名簿の閲覧謄写請求権を認め,会社法125条は,株式会社の個々の株主に対し株主名簿の閲覧謄写請求権を認めていること

・区分所有法34条3項及び4項は,少数組合員が総会を招集する場合があることを定めているが,少数組合員が組合員名簿を閲覧できなければ上記規定の実効性を確保することができないおそれがあること

を理由に,閲覧請求権を定めた規約は有効としました。

その上で,「例外的に」,情報開示を拒絶できる場面に該当するかについても,本事例では否定しました。

本事例で,組合員が開示を請求した経緯は,管理組合が発注する大規模工事(予算8400万円)の請負業者が,特定の組合員と利害関係があり,不正が行われているらしいという噂があったところ,理事会が業者選定経過を何も説明しないこと,組合の役員人事の選任に不透明な点があったこと等に不審を抱いた組合員が,管理組合に工事に関する資料の開示を求めたのに,何ら資料が開示されず,明示的に資料の開示を拒絶したため,管理組合の運営に不信感を抱いたというものでした。文書の閲覧請求には,なるほどうなずける相応の理由がありました。

 

上記判例から考えると,管理規程に定められていたとしても,名簿等の個人情報に関する閲覧請求に際しては,その理由について確認する必要があり,無制限に応じなければならないということではないと言えます。名簿を第三者に売るなどの不当な目的をもっていれば拒絶が可能な場合もありますので,特に名簿の開示については慎重な判断を要すると思われます。

マンション管理費等の特定承継人への請求

分譲マンションの修繕積立金や管理費等の滞納は管理組合の大きな悩みの一つです。

さて,分譲マンションは売買等により区分所有者が転々と変わることもあり,滞納管理組合費等を未回収のままいなくなった・・・という場合もよくあると思います。

その場合,新しい区分所有者(特定承継人)に対しても滞納分の請求ができるという根拠条文は,区分所有法第8条及び第7条です。

では,区分所有権が転々とし,滞納者A→B(中間取得者)→Cと移った場合,組合は,現所有者であるCに請求できることは明らかですが,BにもAの滞納金を全額上記8条を根拠に請求できるでしょうか?

この点については,裁判所は,Bはもう区分所有者ではないので否定するという考え方をしていたこともありましたが,現在は,Bに対しても請求可能と肯定するものが多くなっています。

理由としては,管理費等の債権保護を優先する政策的判断や条文の文言等からも限定的な責任に解釈する根拠がないとされています。

ですから,区分所有権が転々とした場合には,請求は現所有者のみではなく,中間取得者に対しても請求し,確実な未納金の回収を図るべきです。

また,未納金で注意すべきは,管理費等は,民法第169条の定期給付債権の短期5年の消滅時効が適用されるので,のんびりしていると請求権が消滅してしまいかねません。

区分所有権を移転すれば,組合の管理規約上,区分所有者の変更,組合への加入届が手続的に求められているのが通常ですが,この届出が必ずしも守られていないこともままあります。

そのため,管理組合が,現所有者を把握できずにいた場合,現所有者に対して請求していない客観的事実が継続し,現所有者については時効期間が経過し,現所有者から時効を援用されてしまった場合は,現所有者に請求できないのでしょうか?

このような事例として,平成27年7月16日東京地裁の控訴審判決(一審 東京簡易裁判所)があります。

Aが管理費等を未納したまま,Bに区分所有権を移転し,さらにBが未納金の支払い未了のまま,Cに区分所有権を移転しました。しかし,Cは,Bの名義のまま管理等を支払い続け,区分所有者の変更届を管理組合に提出しませんでした(なお,Cは,Bの代表取締役でした)。

管理組合は,AとBに対して支払いの催告(民法153条)をし,さらに東京簡易裁判所に支払督促(150条)の申立をし,AとBに対しては時効中断が認められました。

ところが,管理組合は,Cが現区分所有者ということを知らなかったので,Cについては,時効期間が経過し,Cが時効を援用する意思表示をしました。

この点については,東京高裁は,Cによる時効援用の意思表示については,信義則に反して権利濫用であるという判断をしました。

理由は,管理組合がCに時効中断措置をとれなかったのは,CがAの滞納を知りながら,Cが管理規約に反し,区分所有者の変更届をしなかったからであって,管理組合の権利行使を著しく困難にさせた要因はCの行動にあるからだとしました。

このように,原則としては,時効の中断は相対効といって,債務者各自に対して中断措置をとらなければならず,債務者のうち一人に対して中断しても効果はないので,この場合も,新所有者のCには中断措置をとっていない以上,Cは時効の援用が可能なはずです。

しかし,管理組合が時効中断措置をCに対してとれなかった原因が,Cの違反行為等にある以上,Cはその権利を行使する,つまり時効の援用をするのは信義に反するという例外的な判断をして,Cの時効援用を認めませんでした。

時効については,上記のような裁判所の判断もありますので,細かな事情を検討して未納金請求をあきらめないケースも考えられるということです。

ただし,未納金の回収としては,あくまでも短期時効は5年ということを念頭において,早めの措置が重要です。

 

 

個人再生手続とは

債務整理の一つに個人再生というものがあります。

自己破産のように債務が全て免責されるというものではなく,大幅に減額してもらった額を3年から5年かけて分割払いしていくというものです。

この手続きの大きなメリットは,住宅ローン以外の消費者金融等の債務は大幅に減額してもらい、住宅ローンに限って今まで通り支払うことを裁判所に認めてもらう住宅ローン特則という制度を使うことができれば(一定の条件があります。),住宅を手放さないことができることです。

個人再生手続の利用要件は,次の①から③となっています。

  ①個人の債務者で,

  ②将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり(給与所得者等再生手続については,さらに,給与又はこれに  類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれることが必要),

  ③再生債権の総額(住宅ローン等を除く。)が5000万円以下である。

 

また,個人再生手続により,債権者に対して,最低限返済しなければいけない額は,次のとおりです。

但し,これらの最低返済額は,財産の状況などによって変わる場合があります。

また,自宅を残すために住宅ローン特則を利用した場合,住宅ローンは,次の支払いとは別途支払続ける必要があります。

 ア 小規模個人再生手続の場合

   およその目安ですが,再生債権の総額(住宅ローン等を除く)に応じまして,その総額が

    100万円未満の場合→総額全部

    100万円以上500万円以下の場合→100万円

    500万円を超え1500万円以下の場合→総額の5分の1

    1500万円を超え3000万円以下の人→300万円

    3000万円を超え5000万円以下の人→総額の10分の1

 イ 給与職者等再生手続の場合

   自分の可処分所得額(自分の収入の合計額から税金や最低生活費などを差し引いた金額)の2年分の金額と上記アで算出し  た金額とを比較して,多い方の金額となります。

 

 

 

 

 

メールの閲覧・監視はパワハラか

会社で従業員個々人に業務用のメールアドレスを保有させて社内及び社外取引先との連絡に使用するのは最近当たり前となってきました。

メールはデータの送受信も可能であり,大変便利である一方,私的メールの横行など会社としては悩ましい問題も発生しています。

そのため,会社が従業員個人のメールを閲覧・監視するケースもありますが,この監視・閲覧行為が違法になるケースがあるのでしょうか?

社員間の私的メールの送受信の閲覧・監視行為について,裁判所(東京地判H13.12.3)は,社員に一定のプライバシー権を留保しつつ,社内メールは一定の範囲でサーバーや端末に残り,社内のシステム管理者が存在して,ネットワーク全体を適宜監視して保守点検しているという電話とは異なるメールシステムの特性を指摘し,電話の場合と全く同程度のプライバシー保護を期待することはできないとした上,社内メールの場合は,「監視の目的,手段及びその態様等を総合考慮し,監視される側に生じた不利益を比較衡量の上,社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り,プライバシー権の侵害となる」と違法になる場合を限定しています。

その具体例としては,職務上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任にない者が行った場合,同立場にある者でも好奇心からなど不当な目的があった場合,又は監視の事実を秘匿して個人の恣意に基づいて監視した場合などが挙げられています。

また,社内で誹謗中傷メールの送信者特定のための調査行為のために会社が所有管理するファイルサーバー上のデータ調査を行った行為について,裁判所(東京地判H14.2.26)は,個人の私物を保管させるロッカー等のスペースとは異なり,業務関連情報が保存されているものであり,ファイル内を含めた調査は,その目的,手段,合理性,必要性等を考慮し,社会的に許容しうる限度を超えて違法にならない旨判示している。

上記二つの裁判例のとおり,会社は正当な理由や必要性がある場合は,閲覧・監視行為が可能です。

もっとも,従業員との無用なトラブル防止のために,私的メール等の横行が明らかで,職場秩序が乱れている場合などは,従業員に対してあらかじめ定期的に監視する旨警告するなどの配慮をしてはいかがでしょうか。