マンション管理費等の特定承継人への請求

分譲マンションの修繕積立金や管理費等の滞納は管理組合の大きな悩みの一つです。

さて,分譲マンションは売買等により区分所有者が転々と変わることもあり,滞納管理組合費等を未回収のままいなくなった・・・という場合もよくあると思います。

その場合,新しい区分所有者(特定承継人)に対しても滞納分の請求ができるという根拠条文は,区分所有法第8条及び第7条です。

では,区分所有権が転々とし,滞納者A→B(中間取得者)→Cと移った場合,組合は,現所有者であるCに請求できることは明らかですが,BにもAの滞納金を全額上記8条を根拠に請求できるでしょうか?

この点については,裁判所は,Bはもう区分所有者ではないので否定するという考え方をしていたこともありましたが,現在は,Bに対しても請求可能と肯定するものが多くなっています。

理由としては,管理費等の債権保護を優先する政策的判断や条文の文言等からも限定的な責任に解釈する根拠がないとされています。

ですから,区分所有権が転々とした場合には,請求は現所有者のみではなく,中間取得者に対しても請求し,確実な未納金の回収を図るべきです。

また,未納金で注意すべきは,管理費等は,民法第169条の定期給付債権の短期5年の消滅時効が適用されるので,のんびりしていると請求権が消滅してしまいかねません。

区分所有権を移転すれば,組合の管理規約上,区分所有者の変更,組合への加入届が手続的に求められているのが通常ですが,この届出が必ずしも守られていないこともままあります。

そのため,管理組合が,現所有者を把握できずにいた場合,現所有者に対して請求していない客観的事実が継続し,現所有者については時効期間が経過し,現所有者から時効を援用されてしまった場合は,現所有者に請求できないのでしょうか?

このような事例として,平成27年7月16日東京地裁の控訴審判決(一審 東京簡易裁判所)があります。

Aが管理費等を未納したまま,Bに区分所有権を移転し,さらにBが未納金の支払い未了のまま,Cに区分所有権を移転しました。しかし,Cは,Bの名義のまま管理等を支払い続け,区分所有者の変更届を管理組合に提出しませんでした(なお,Cは,Bの代表取締役でした)。

管理組合は,AとBに対して支払いの催告(民法153条)をし,さらに東京簡易裁判所に支払督促(150条)の申立をし,AとBに対しては時効中断が認められました。

ところが,管理組合は,Cが現区分所有者ということを知らなかったので,Cについては,時効期間が経過し,Cが時効を援用する意思表示をしました。

この点については,東京高裁は,Cによる時効援用の意思表示については,信義則に反して権利濫用であるという判断をしました。

理由は,管理組合がCに時効中断措置をとれなかったのは,CがAの滞納を知りながら,Cが管理規約に反し,区分所有者の変更届をしなかったからであって,管理組合の権利行使を著しく困難にさせた要因はCの行動にあるからだとしました。

このように,原則としては,時効の中断は相対効といって,債務者各自に対して中断措置をとらなければならず,債務者のうち一人に対して中断しても効果はないので,この場合も,新所有者のCには中断措置をとっていない以上,Cは時効の援用が可能なはずです。

しかし,管理組合が時効中断措置をCに対してとれなかった原因が,Cの違反行為等にある以上,Cはその権利を行使する,つまり時効の援用をするのは信義に反するという例外的な判断をして,Cの時効援用を認めませんでした。

時効については,上記のような裁判所の判断もありますので,細かな事情を検討して未納金請求をあきらめないケースも考えられるということです。

ただし,未納金の回収としては,あくまでも短期時効は5年ということを念頭において,早めの措置が重要です。

 

 

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遺言にも様々な種類が。

遺言については,ドラマ等テレビでもよく出てくるもので,皆様もよくご存知だと思います。

では,遺言にも種類があることはご存知でしょうか?

遺言は,まず,大きく分けると,普通方式の遺言と,特別方式の遺言とに別れます。

そして,普通方式の遺言には,

①自筆証書遺言,②公正証書遺言,③秘密証書遺言

の3種があります。

一方の特別方式の遺言には,

危急時遺言として,④死亡危急者遺言,⑤船舶遭難者遺言

隔絶地遺言として,⑥伝染病隔離者遺言,⑦在船者遺言

の4種があります。

皆様がテレビ等でよく目にする遺言は,普通方式の遺言の中の①自筆証書遺言であることが多いと思います。

次回からは,主に普通方式の3種の遺言について,ご説明します。

パワハラとは? 

パワハラという言葉はよく耳にしますが,その定義はご存じですか?

実は,パワハラの定義を具体的に定めた法律はありません。

強いて言えば,厚生労働省の平成24年1月30日「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議WG報告」で,「職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と表現されています。

抽象的で難しい表現ですね。

パワハラは,加害者と被害者は,通常想像するのは上司と部下でしょうが,先輩後輩,同僚間でも起こりえますし,その加害態様も様々なことから,一律に定義付けするのがとても難しいからと思われます。

そのため,実際の場面でも,パワハラにあたるのかどうかを判断するのは非常に難しく,個別具体的な事情を考慮して,その行為がパワハラにあたり違法との評価を受けるのかを検討する必要があります。

その判断基準としては,行為態様,行為の目的,行為の必要性,その行為に至るまでの経緯,行為の程度,当事者の関係等,つまりは,関係する事情全てを詳細に検討しなければならないといえ,慎重な判断が必要です。

次回から,パワハラの具体的な裁判例での判断や,会社におけるパワハラ対策についてご紹介していきます。

 

折り鶴で社会貢献活動

平成25年6月に刑法の一部が改正される決議がありました。

刑の一部の執行猶予と,保護観察中の人に対する特別遵守事項に社会活動を盛り込んだ刑の一部の執行猶予とのが主な柱です。

今日は,特別遵守事項について触れてみたいと思います。

「特別遵守事項」とは,更生保護法に定められており,簡単に言うと,保護観察所長等が保護観察に付された人等に対し,特別に守るべき約束を設定することです。

この特別遵守事項に「地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと」を加えたのです。

なお,この規定は,平成27年6月までに施行されます。

社会貢献活動の具体的内容は,法律で定まっておらず,各地方保護観察所等で決めることができます。

主なものは,公共の場所での清掃や募金活動,福祉施設での介護補助等が挙げられます。

長崎地方保護観察所や長崎更生保護女性会では,施行前ですが,この社会貢献活動の一つとして,原爆投下という経験から,世界に現存するとされる核弾頭の数に合わせて,1万7300羽の折り鶴の作成を行っています。

これらの折り鶴で精霊船を彩る構想もあるそうです。

とっても長崎らしい社会貢献活動ですね。

 

労働時間管理の重要性

労働基準法では,労働時間は1週40時間,1日8時間を超えてはならないと定められています。

休日は,毎週少なくとも1日与えなければなりませんが,4週を通じ4日以上の休日を与える場合は,1週1日の休日がなくとも問題ありません。

労働者に対し,上記労働時間を超えて時間外労働をさせる場合,あるいは,休日労働をさせる場合は,労使協定を締結し,その協定を労働基準監督署長に届け出る必要があります。

なお,休憩は,労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分,8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を与えなければなりません。

深夜労働とは,午後10時から午前5時までの間に労働させた場合に該当します。これは,法定労働時間を超えたかどうかとは関係なく,一定の時間帯における労働時間に対して割増賃金を支払わなければならないものです。

 

 

 

労働時間管理の重要性

サービス残業が日常化しており,これまで従業員から残業代の請求をされたことのない経営者は,従業員の労働時間の管理を怠っていることがあります。

これは経営者が悪質である場合に限らず,逆に社長が従業員に対して面倒見がよく,アットホームな雰囲気の会社などでもよく見られることです。

あれだけ面倒をみてあげた従業員が,まさか会社を訴えるようなことはしないだろうと思っていても,会社を退職した元従業員から何百万円という残業代の請求を受けてしまうということは珍しいことではありません。

時間外労働・休日労働・深夜労働(午後10時から午前5時)に対する割増賃金は,次の通りです。

通常労働時間の賃金に加えて,次の割増賃金を支払う必要が生じます。

時間外労働:通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の25%以上

1か月60時間を超える時間外労働:同じく50%以上

休日労働:同じく35%以上

深夜労働:同じく25%以上

賃金請求権の消滅時効は支払期から2年ですので,最長で2年分請求される可能性があります。

残業代の請求は,金銭的な打撃のみではなく,経営者が従業員を信じられなくなるというような心理的な打撃も受けることも多いようです。そのような事態に陥る前に,労働時間をしっかり管理する必要があります。

次回は,法定労働時間についてご説明したいと思います。

 

 

 

セクハラ対策していますか?

職場でセクハラについて,必要な対策を講じていますか?

セクハラは,起こってしまうと被害者に大きなダメージを与え,職場環境の悪化から,他の従業員の職務遂行にも悪影響を及ぼします。また,加害者の多くが上司であることから,なかなか被害申告ができず被害が拡大しやすい傾向にあります。

そのため,事業主の皆様は,予防に力を入れることが何より大事です。

厚生労働省は,男女雇用機会均等法に基づき「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」において,以下の9項目を事業主に求めていますが,ご存じですか?

ア 職場におけるセクハラの内容,セクハラがあってはならない旨の方針を明確化し,管理・監督者を含む労働者に周知・啓      発すること
イ セクハラの行為者については,厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し,管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
ウ 相談(苦情を含む)窓口をあらかじめ定めること
エ 相談窓口担当者が,内容や状況に応じ,適切に対応できるようにすること。また,広く相談に対応すること。
オ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
カ 事実確認ができた場合は,行為者及び被害者に対する措置を適正に行うこと。
キ 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も同様)。
ク 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,周知すること。
ケ 相談したこと,事実関係の確認に協力したことなどを理由として不利益な取扱を行ってはならない旨を定め,労働者に周知・啓発すること。

小規模の会社等では,なかなか体制整備が難しいかもしれませんが,小規模であればあるほど,セクハラによる影響も大きくなりやすいと思いますので,予防対策について検討することがリスクを回避するためには重要と考えます。

婚姻費用について

離婚に際してよく問題になるのが「婚姻費用」です。

「養育費」は聞いたことがあっても「婚姻費用」を聞いたことがあるという方は少ないのではないでしょうか。

養育費は,離婚後に子供の養育をしない他方の親から支払われるものですが,婚姻費用は,離婚成立前に夫婦が別居しているときなどに支払われるものです。

例えば,妻が離婚を決心して子供を連れて別居した場合,妻は,夫に対して,自分や子供たちの生活費を請求することができます。これが婚姻費用分担請求です。

分担額をお互いが合意できない場合,裁判所に対して調停の申立をし,それでも和解できなければ,双方の収入や子供の数などにより,裁判所が分担額を決定してくれます。

裁判所が使用している婚姻費用の算定表は公開されていますので,予めある程度の予想は可能です。

因みに,婚姻費用は妻の分も含まれますので,子供のための養育費よりも多額となるのが通常です。

現在,別居中で夫から生活費を全く受け取っていない方は,婚姻費用分担請求することを検討されてはいかがでしょうか。